日別アーカイブ: 2015年9月6日

油絵の具の色について(黄色編)

こんにちは。油絵科の関口です。

皆さんは黄色い絵と言って、まず思い浮かぶのはゴッホのひまわりでしょうか?今日はもう少し古い時代の黄色について、お話しようと思います。
ひまわり
ゴッホ「ひまわり」1989年

 

彩度の高い赤や青は、ルネサンスの油絵の中に用いられていましたが、当時の油絵をよく見ると、黄色で鮮やかなものは殆ど見受けられません。黄色の代わりに金箔を使っていたのではないか?と思われます。
当時の黄色は、イエローオーカーやローシェンナという黄土色が主体で、文字通り黄色っぽい土から作られていました。イエローオーカーの歴史は古く、世界中で古代から使われていた事が確認されています。レオナルドとラファエロ
レオナルド(左)もラファエロ(右)も鮮やかな黄色は使用していません。

 

イタリア北部のヴェネツィア派と呼ばれる人達の中には、黄色を積極的に取り入れた作品が見受けられます。この黄色はオーピメントという、硫化砒素(猛毒!)を用いている様です。この色は現在使われていません。博士たちと議論するキリスト1560
ヴェロネーゼ「博士たちと議論するキリスト」1560年

エルグレコ
若い頃にヴェネツィア派で修行した、エル・グレコも黄色を積極的に使っています。※ 調べてみましたが、使用顔料は分かりませんでした。

 

比較的鮮やかな黄色が絵の中で使われる様になったのは、17世紀に入ってからになります。中でも人々の印象に残るのはフェルメールではないでしょうか。
古い文献を読むと、フェルメールの黄色にはマシコットという、鉛から作られたものも使われていた…というものが見受けられます。しかし実際は鉛錫黄(Lead?Tin?Yellow)という色だった様です。この色も現在は使われていません。手紙を書く女1665 - 1666
フェルメール「手紙を書く女」1665?66年

 

 

さて冒頭に書いた、ゴッホのひまわりですが、ゴッホの黄色は、クロムイエローだったと伝えられています。クロムイエローは安価ですが、耐候性が悪く、黒変する上にクロム酸鉛を使用しているので毒性が強い…という何とも厄介な色です。独特な重みがあって、綺麗な色なんですが、変色してしまうのが何とも残念です。
現在使われている不透明色の黄色で最も優れているのは、カドミウムイエローだと思います。カドミウムイエローも毒性はありますが、無機顔料で不透明な黄色には殆ど毒性があり、代替する顔料は見つかっていない様です。

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ルドン「昼」1910年  フォンフロワド修道院図書室壁画

明るくて華やかな色なのに、毒がある。・・・油絵具の黄色とは、実はそんな色なのです。