こんにちは。油絵科の関口です。最近は各地でで大雨が降ったり、東京ではデング熱が流行したり、日本も熱帯地方の仲間入りをしてしまった様なニュースが続いていますね。これから台風シーズンに突入しますし、心配している人も多いと思います。全国に穏やかな季節が訪れる事を祈っています。
ところで、皆さんはこの絵をご存知ですよね??
そう。ボッティチェルリの描いた「ヴィーナスの誕生」(1485年頃)です。今日はこの作品の作者、サンドロ・ボッティチェルリについて書こうと思います。
とても有名なこの作品ですが、カンバス(キャンバス)に※テンペラで描かれています。油絵ではないんですよ。知っていましたか?
※テンペラとは、簡単に言うとメディウム(接着剤)に卵を使った絵具です。(実際には色んな種類がありますが、長くなりますので、ここでは割愛します)
「ヴィーナスの誕生」は明るく、健康的で、優雅な雰囲気を漂わせ、ボッティチェルリらしい特徴が至る所からにじみ出てきています。嫌味のないその作品が500年以上に渡って世界中の人々を魅了してきたのも納得がいきます。
僕は学生時代、友人とイタリアで本物を見ましたが、その時の印象は「わ?。本物だ?。でも意外とザックリ描かれているんだな?」とまるで素人(笑)みたいな事しか浮かばなかったのです。既に画集などで図版を見ていたので、その印象との違いを比べる位しか出来なかった様な気がします。逆を言えば、それは「図版でも一度見たら忘れられない程の印象を植え付けてしまう、普遍的なデザイン性を持っている」という事なのかもしれませんね。
ところで、この作品のすぐ近くにボッティチェルリのもう一つの代表作「春(ラ・プリマヴェーラ)」(1477?1478年頃)が展示されています。この作品は板にテンペラで描かれています。
こちらも旅行前に図版でよく見ていたものですが、この作品の方が実物を見た時の印象は強く残っています。・・・と言っても「すげ〜。無茶苦茶綺麗だな〜」という、やはり素人丸出し(笑)の感想しか出てきませんでした。
「ヴィーナスの誕生」と比べると「春」は全体のコントラストが強く、それでいて繊細。隅々のかなり細かい所まで描き込んでいます。中でも足元に生える植物や花々は非常に美しく、タイトルの「春」を感じさせる名脇役として、文字通り花を添えています。研究者によると、ここに描かれた殆どの花々は今でもフィレンツェ周辺で見る事が出来るそうです。
これは右端下の部分。本当に細かいところまでよく描いています。
ちなみに、この作品は1980年代に修復され、足元の暗闇の中から克明に描かれた植物が再発見されたそうです。余談ですが、油絵科の海老澤先生曰く「私が見た時には、コントラストの強い花はともかく、葉っぱなんか凹凸のマチエールだけで、色も何も見えなかった」との事です。
大らかな印象の「ヴィーナスの誕生」と、繊細な印象の「春」という二つの代表作。これらは同じ部屋に展示されているので、否が応でも比較してしまうのですが、同一作者の作品でありながら、この違いは一体どうして生まれたのでしょうか?
今回は長くなりそうなので、来週この続きを少し掘り下げて書こうと思います。